出版社ロゴ

零合舎×ノベルアップ+ 『零合』百合文芸コンテスト 結果発表

2025年07月30日投稿 / 12,913字
小説投稿サイト『ノベルアップ+』にて開催した『零合』百合文芸コンテストの選考結果を発表します。 最優秀賞は賞金10万円&『零合』への掲載確約、このたび新たに特別賞(賞金3万円)を設け、合計15作品が受賞しました。

総評

『零合』百合文芸コンテストにご応募の作家、多くの読者の皆さまに感謝申し上げます。 本コンテストは「持ち込みのみ」の零合舎にとって初の公募です。総合文芸誌の名を冠し、自由闊達な物語を広く募集しました。 最優秀賞は掲載確約の百合小説で初の「文学賞」です。 このたび、短編・中長編部門合わせて533作品の小説を頂戴しました。 選考は編集部員・所属作家を含む総力戦で臨みました。結果、多くの特別賞を設け、有り難くも「ノンジャンル」に相応しい裾野の広い作品が揃いました。 『零合』は百合小説唯一の商業媒体であると同時に、同じ志を持つ者の同人誌を自負し、2022年当時より以下を掲げてきました。 ぜろごう【零合】[名] ①物事の起こるさま。進み具合。「――目」 ②未完成であるようす。零号。「――試写」 ③割り切れないこと・おもい。⇒百合 [類]NULL(ヌル) ジャンルを越境する〈どくどくした沸騰〉。湧水となり「いま」を形作る作品。こうして「533」という大きなうねりを肌で感じ、いま一度商業の場にそれを問うための準備が整いました。 〝百合にはまだまだ未発見の「好き」がたくさん眠っている〟 かつて、そんな志から〝場〟を発起した作家が私でした。 『零合』は潮流に逆らって転がるひとつの岩です。 削られ尖った石ころを、零さずつなぎ合わせ長城とすべく砕心し、こうして頂上にひとつを重ねる機会をいただけたこと、誠に重畳です。 すべての方々に改めて深く御礼申し上げます。 「感情・関係・物語」の揃った小説で、百合を盛り上げていきましょう。 壁ではなく城を、〝好き〟でジャンルをまた新たに築いていきましょう。

(『零合』編集長/れむれむ)

【募集期間】2024年12月6日(金)正午 ~ 2025年2月16日(日)終日 【選考委員】れむれむ(選考委員長)、編集部・梅田/SS/TK、(最終選考のみ)綾加奈、伊島糸雨 【イラスト】比良坂新

中長編部門

最優秀賞

千羽稲穂「地獄を羽織る。」

小説を読む際、必ず映像を思い浮かべます。映像とは極論色の塊です。本作の序盤は「輪郭があいまいでグレー」に感じられ、一言で表すと視界が冴えません。その理由がわかった途端、物語のシルエットが浮かび上がり、主人公の凹凸(かたち)が他者との衝突によって明らかになる中で、加速度的に面白みが増す小説でした。 人物が各々の人生を全うする中で語られることに興味があります。その点で間違いなく物語を伴った人々を描き、行き交う関係・感情もぶ厚かった。ここには確かに文字数以上の時間が流れていました。 入賞作の中では比較的細部に粗を感じたものの、その不器用なザラつきさえ愛おしく感じる瞠目すべきドラマでした。一作家としても、ラストのザッピングには強くシンパシーを覚え、色の塊にピントが合う――像を結び一点に色づく――出し惜しみなくカードが切られた瞬間に極めて原初的な「物語」への感動がありました。業を、〝物語の主人公〟を羽織る、死のそれよりも生をあらわす鮮やかな紅が印象的だった本作を『零合』百合文芸コンテストの映えある第1回最優秀賞に選出します。(編集長)

圧倒的。スピリチュアルな表現かもしれないが、優れた小説には読者の嗅覚を刺激するなにかがあるとおもう。細部を評する以上に、それだけの圧を込め、電子の画面越しにも言葉の重みや色で殴り込んでくるだけの仕上がりを施した本作に敬意を表したい。荒削りな点はある。けれど、それがなんだ。面白かった。本作の、魂を素材に彫琢したとしか思えないほどの気迫を前に膝を折った。(編集部・梅田)

刺青の彫師のアキと出会ったことで、人生が一変していく主人公の物語として非常に読ませるものに仕上がっていた。文章が力強く、特に感情表現が巧みでグイグイ読ませてくるリーダビリティの高さは目を見張るものがあった。主人公がアキと同じ道を行く覚悟を決めるまでの切実なドラマを見事に描き切っており、タイトルに込められた意味を理解した時、思わず膝を打った。感情・関係・物語の三拍子揃った小説として最優秀賞に相応しい一作。(編集部・SS)

小説には速度があると考えています。速いも遅いも大切な構成要素ですが、この作品には錯覚的な速度感があったと思います。ハイテンポな展開に腕を引かれるような力強さがある一方で、物語の根底には全体を一貫するおどろおどろしい躍動感がある。掴みにくさを感じながらも「これでいいんだ」と納得させられる独特な印象は、この小説にしか表現できないものだと思います。妖気と色彩を放つ文体で語られる「感情・関係・物語」、そして小説の枠を超えて読者を突き刺すような切実さ。まさに零合の目指す百合の一端に触れた作品と言って過言ではないように思います。(編集部・TK)

全体を貫く「刺青」のモチーフが非常に興味深く、豊富な比喩と鬼気迫る刺青周りの表現、アキ、ヨル、フユといった人物はそれぞれの歪さを抱えながらも魅力的で、新鮮な楽しさのある作品でした。物語の主体である主人公の描き方(パーソナリティに関わる情報の出し方)には、もう少し工夫や補足が必要であると感じたものの、「わたしはわたし」を貫くアキと、最後にそこへと至る主人公の対比がよく効いていて面白かったです。(伊島糸雨)

テーマ、関係性、描写、すべてが高水準で、こんな美味しい社会人百合を無料で読めてもいいんですか!? と驚いてしまうような小説でした。刺青と彫師という珍しい題材に、テーマと人物の絡め方や情報の出し方が匠のそれだったと思います。さらにパーソナリティや関係性、物語の結末にまでしっかりと『刺青』が活かされており、すべてが漏れなく綺麗でした。読ませていただきありがとうございます。(綾加奈)

特別賞

玻璃「雷光をちょうだい」

準最優秀賞

キラキラよりギラギラ。デコりデコられ。辞書に「虚飾」という言葉がない、背伸びしなければ息ができない必死さ。 何をもってセンスやオリジナリティとするかは難しくとも、語りには唯一無二の輝きがあり、本コンテストの中で一等です。少女小説であり、青春濃度が高く、あまりにも今らしい「酸味」のある内容は確かに賞味期限が短いかもしれない。でも当たり前です、14歳なんて光陰矢の如しなんです。その一瞬を少女は消費し消費される関係にある。あるいはにゃむりんちゃんのように。 個人的に見過ごせなかった一節を、以下に引用します。 〝寒い。くしゃみをする。生きていると感じる。ピアスを開けようと思う。あと五分でお風呂が溜まると母が呼ぶ。鼻水が垂れる。取りあえず、まずは風呂だと立ち上がる。〟 無条件に肯定されるべきバイタリティ。生きることはイコール叫ぶことで、視野狭窄で24時間うるさい頭の中を滅茶苦茶にぶちまける。殺しても誰にも奪えない物――〝若さ〟を真空パックする装置としての小説。 17歳になった真白たちは「え、死ぬ」と振り返るでしょう。でも、この作品は三年経っても死なない「本物」です。「最優秀賞ふたつある、笑笑」と悩みましたが、次点で準最優秀賞とします。(編集長)

具体性と比喩に富む優れた表現と可読性、バランスの取れた構成とリアリティの高いキャラクター、どれをとっても説得力があり、非常に優れた作品でした。主人公、ゆー、朱音それぞれが抱える思いの交錯が本当に見事で、中学2年生という年齢設定も非常に納得感がありました。 単一の関係に留まらず、複数の関係が持つ様々な顔、想いの流動性が非常に克明かつ滑らかで、「語り」の切実さに胸を打たれました。(伊島糸雨)

過剰なまでの物量で殴りつけてくる作品。にもかかわらず一文一文に深い洞察と独自性が含まれており、カロリーが高すぎる。自分のものとは異なる価値観を無理やり飲み下される筆力があり、読了後いい意味で疲労感に包まれるような作品でした。令和という時代を刻む百合小説として、今後に遺していかなければならないと思います。(綾加奈)

他人の目に支配された地獄のような世の中を、それでも必死にもがいて生きようとするドラマが丁寧に描かれていた。それでいて、読み手の心に訴えかける一文を差し込んでくる文章力の巧みさに圧倒された。ファッションやSNSに対して解像度の高い文章を描けており、令和の時代を生きる中学生の切実さが伝わってきた。ルッキズムという同時代性の高いテーマを見事に描き切っており、今だからこそ読まれるべき作品。(編集部・SS)

〝何もわからないどこかの、わたしを知らない誰かで、だからこそ適当な言葉を掛け合えられる、かけがえのない代替品。〟 冒頭に記された、SNSを流れる「声」を主人公が眺める場面で浮かぶ独白としてこの一文を目にして、度肝をぬかれた。1行で作品の核心を曝け出すと同時に、これが「声」の物語であると宣言する「独白」。新しい声、語りが本作にはあった。最後の言葉に至るまで、本作における「声」は新しかった。文学に求められる新風を感じさせる名編だった。最後の最後まで『地獄を羽織る。』と甲乙つけがたかったため、コンテストの性格を鑑みて検討するよう編集長に進言することしかできなかった。(編集部・梅田)

優秀賞

代官坂のぞむ「香港夜景」

香港の地を舞台に、日本と中国という異なるルーツを持つ二人の女性の交流が柔らかくもメリハリを持って描かれており、内容にも字数に見合った密度と流動性がありました。舞台設定はもちろんのこと、それを活かした土地と文化の描写が丁寧で、「場所」に没入して読み進めることができました。道教や風水といった要素をファンタジー的に織り交ぜながら謎を解明していく過程も面白かったです。 総合的に口当たりの良い作品で、広い層におすすめしたいと思いました。(伊島糸雨)

投稿作の中でもっともグローバルな文学作品として本作を推挙した。香港という土地への詳細な取材、そして、香港と日本との歴史と文化への敬愛がなければ、この物語は描けない。大学という複数の「ことば」が対等に交わる場で始まり、国家の意図が個々人の意思を蹂躙し憎悪を駆る時代を進める二つの時代が描かれ、愛が二つの時代を貫く因縁を昇華する。一つ一つのピースが丁寧につながっていた。一方で、中終盤に登場するオカルト表現は、香港文化を知っていればリアリティラインが現実に近い本作で自然に登場することに違和感はないものの、作品単体でオカルト表現の登場を自然だと感じさせるような必然性の説得が不足していたように思う。また、ドラマチックな出来事に対して、あえて一定のトーンを崩さず書かれたであろう丁寧な文体と、構成……具体的には過去を探索するパート……が少しくどかった。私見だが核心に迫る速度も作品の品質には重要だと感じる。難しい注文ではあるが、もう一段推敲し、言葉を切り詰め、もっと深く切り込んでいれば、より高く評価されただろう。(編集部・梅田)

入賞

tada「嘘、それは」

十代のささくれ立った感情を鮮烈に描く、とても好みの作品でした。序盤のハイスピードな展開で一気に引き込まれ、結末を求めて貪るように読み進めました。大筋は「王道の百合」でありながら「真の動機」を知る読者からは二重、三重の意味が読み取れる構図も素晴らしかったです。(綾加奈)

本コンテスト投稿作品において最長級の約10万字作品でありながら、文章全体が洗練されていた非常にクオリティの高い作品です。そのあまりの完成度の高さに編集部内では「既に編集が付いているのでは?」といった憶測が飛び交うほどでした。ハイスピードながらも読者を置き去りにしないエンタメ性、登場人物の心理を丁寧に表現するレトリック、倒錯した感情の中に描かれる切実な訴えなど、百合小説としての魅力以外でもかなり満足度の高い作品でした。(編集部・TK)

パルプ小説として読んだ。全編を通じた読みやすさ、個々の描写や登場人物の過剰さとそれゆえの(少々の?)雑さ。チェーンのファストフード店が提供するハンバーガーのような、安定した過剰な味付けで食べやすい小説として、高い完成度を示していた。提供される味もまた崩壊のカタルシスと大味で、少々の雑味も難ないものだ。ただし、パルプ小説であるが故に、登場人物の奥行きが物足りず、味つけの好みが合致しない読者にはその雑味ゆえに顔をしかめられるだろう。普遍的な面白さが宿るよう、構成レベルでの推敲が望まれる。(編集部・梅田)

タチバナ「煌めく星を追いかけて」

ストレートな文章が少女たちの感情を素直に描き切っていました。「囲碁」という物珍しい題材にもかかわらず、すらすらと面白く読み進めることができたのも、この文章力のおかげです。エンタメとしても高水準で、癖のない真っ直ぐの作品でここまで面白いものに仕上げられるのは優れた作家の証拠だと感じました。(綾加奈)

囲碁を中心に扱う百合作品という新鮮さ、対局中の緊迫と駆け引きの描写、天才と天才に及ばない主人公の愛憎入り混じるドラマが一種のスポーツ小説的な熱を持って描かれており、比較的柔らかめのエンタメ囲碁小説として面白く読むことができました。 また、語りが主人公の年齢に準拠するため、序盤の小学生・中学生時代の描写が平易になっており、小・中学生を対象としても良いと感じました。この点に関しては、間口の広さに繋がる長所として、個人的に高く評価しています。(伊島糸雨)

情熱に満ちた青春小説。スポーツとしての囲碁を爽やかに描いた点を高く評価したい。透明度の高い感情が囲碁を通じて交わり、ぶつかり、やがて輝いていく様を読者として心から楽しんだ。しかしながら、本作の魅力はリアリティラインがコミカルではない点にあるにも関わらず、終盤にかけて登場人物の感情や物語の展開、文章運びがやや過剰になり過ぎた部分あり、かえって興ざめだった。全体的にはエスカレートしていくテンションにぐいぐいと引っ張られていったので、作者が書きたいもの・書こうとしているものと、作品それ自体が自然に語っているもののギャップがうまく埋め合わされればよいのではないかと思う。(編集部・梅田)

kassi2nd「ヨロコビノウタ」

SF的な世界観や設定に独自性があり、良くできていた。マユとメアリのガール・ミーツ・ガールとして王道展開を貫いており、ふたりの冒険と戦い、そして決意を自然と応援したくなる。歌をキーワードに世界を救うために世界を変革していく、行きて帰りし物語の構造を見事に描けていた。バトルやアクションもよく描けており、退屈せずに楽しく読み進めることができた。SFエンタメ小説としてハイレベルな出来栄えだった。(編集部・SS)

りんきり「GLadiators/血飛沫滴る花びらたち」

正統派の武人タイプである主人公と芸能活動をしつつアイドル的な存在であるヒールなライバルというキャラクターが立っており、ふたりがお互いに対して向ける殺意や執着が見事に描かれていて殺伐百合小説としての完成度が高かった。総合格闘技の試合描写は迫力満点で、長さを感じさせないほど没入できた。試合描写は作者が綿密に取材をしたのが伺える。物語の最初から最後までエンタメ性が高く、白熱した作品に仕上がっていた(編集部・SS)

物語が進むにつれてエスカレートしていく殺意がヒリヒリする一作だった。ボクシングは合法的に他人を殴り倒して褒められる野蛮なスポーツである。その野蛮さに、血湧き肉躍る。作者はそれがわかっている。読んでそう確信させられる一作だった。惜しむらくは素直すぎる話運びだ。難しい注文にはなるが、作品のもっとも魅力の高い部分をはじめから冒頭に持ってきて、過去の因縁と現在の因縁が絡まる様子が描かれていれば、もっと面白さが高まったのではないか。(編集部・梅田)

沖田響雨花「金糸雀の窮屈と少女達」

コロナ病棟の看護師を主人公に、個人の切実な語りを丁寧に描き出していました。病院での業務に関しては全くの素人ですが、作中における看護師としての働きの描写には高い説得力があり、祖母を中心にした家族等の背景や祖母とその友人の関わりの描写も味わい深く読みました。過去からくる痛みや生活上の苦しさ、中々うまくいかない人間関係なども丁寧に描かれており、そうした現実を踏まえた上でささやかな希望へと繋げる流れは、「語り」の小説として優れた安定感がありました。(伊島糸雨)

全編を通じて丁寧に描かれる現社会のディテールが白眉だった。命を連続的(アナログ)から離散的(デジタル)に、定性的曖昧さから定量的明瞭さに置き換える現代の病院の細やかな描写が、過去の文学作品で描かれた病院とはまるで異質な冷たさを宿していたと思う。この細やかな描写がただの装飾にとどまらず、物語のテーマ性の補強につながり、カナリアのモチーフによって、有機的な輪郭を与えられる点もまた良い。 生者と死者のあいだにはいつの時代も絶対的な隔たりがある。彼岸への旅路を此岸から見るほかないからだ。新型コロナウイルスがもたらしたのは、此岸のなかに、もう一区切り、彼岸への距離を作り出したことではないか。医療従事者は、彼岸と此岸の間に立つ、炭鉱のカナリアをよみがえらせた。この生と死の距離感を、看護師の主人公と祖母とその友人のトライアングルで描く発想は、ただものではない。物語の情感が心地よかった。 個人的に投稿作のなかでも、もっとも射程の広い文学作品の一つだと評価している。(編集部・梅田)

短編部門

最優秀賞

朝凪めい「きみは止まり木」

名は体を表すように、何よりタイトルが美しい。小説において、個人的に重視するものがすべて詰まっていた。 他人を通して確かに「己」を見、それが読者には伝わって――しかし人物たちの共感とは程遠いもので、誰も解り合えない残酷さの中で置き去りにされる感覚。二律背反で不可分な人間関係を訴えかけてくる。鮮やかに描き切ったと言えば凡庸になるが、三人は原色に見え、その他がはっきりとグレーに映っていた。読んでいる間、筆者の掌中で「踊らされている」のが心地よかった。詩情の宿った筆致は強烈で、それでいてくどくない確かな筆力。 強いて言うならもっと読んでいたかった、長篇の「ある章」ならばなお良かった、という一点だけ。よって短篇部門の最優秀賞とします。あと、不勉強で申し訳ないのですが……これ『殺伐百合』じゃないか?(編集長)

バレエにすべてを捧げ、それをなんとも思わない主人公と、互いに共鳴し合いながらもバレエの他に繋がることのなかった神楽の関係、その感情が克明かつ精緻に描かれており、読んでいながら完全に感情を持っていかれました。執着と愛とどこまでも閉じた情熱が静かに淡々と描き出され、そのうねりが素晴らしかったです。 構成も字数に見合ったすっきりしたもので、「感情・関係」において非常に強い短編でした。読んだものの中で唯一涙が出てきた作品です。(伊島糸雨)

一人の表現者として飲み込まれました。 才能と呪い、孤独と祈り。 描かれている内容は痛ましく、それ以上に美しく、堪らなかったです。表現の中の一時でしか交差することのない人生、とても美味しく堪能させていただきました。(綾加奈)

壮絶な死を遂げた「神楽」を悲劇的に描き、彼女に薄幸そうな印象を与えた後で、そのインモラルで破天荒な生前の姿を描写する。短編に求められる引きの強さとして非常に優れていたように思います。抒情的な語りによって綴られる「ドーパミン・バレリーナ」の物語を、強い磁力に引かれるように読み進められました。また、残された人物たちの描き方にもリアリティがあり、「一つのことに命をかける人間」を美化せず描く姿勢に作家の誠実さを感じました。(編集部・TK)

特別賞

いかずちこのみ「チェーホフの銃は撃ち抜けない」

審査員賞

現代、百合に求められるものがもっぱら憧れやリビドーから来る背徳感なのだとして、本作は嫌なドキドキ――主人公の根幹を成す(一種の陰謀論的な)原理が全て勘違いかもしれない緊張感がある。「百合作品の主人公」という、舞台装置的に百合を用い、ジャンルのご都合主義にも自覚的。それ故に最後まで百合として読めず、その「ズレ」さえも作中で突きつけられ、筆者の計算高さ(底意地の悪さ?)を感じます。かくなる上は『いかずちこのみ賞』を作ろう、と編集部も紛糾する番狂わせでした。 構造は良く出来ていて「小説」として面白く、何なら「百合」マニア向けでもある。 以下は私見と期待ですが、筆者はもっと書ける方です。ジャンル的な贅肉を足すか、長編とするならこれを序章とし、エンドマークを打てる「ジャンルの結末」まで書き切ってほしいとも。 思想とも言える筆者の発想力に対し、作家・編集者の各視点の評価を考慮して審査員賞としました。次はひとひねりでなく2回半ひねりを、「詰まり」の果てを見せてください。(編集長)

ずるいだろ。その一言に尽きる。ふつうにやるならメタ認識を入口にして物語を展開するところで、そのメタ認識自体を主題として思弁小説に仕上げるのは、力量ある作者が特注で作った初見殺しの飛び道具に他ならない。裏技的な方法で思考を揺さぶってくるから読んでる間中感情を引っかき回された。読み物としての面白さだけでいえば本コンテストでトップだった。 本作が最優秀賞に選ばれなかったのは、これが裏技的な飛び道具だったからだ。その構造ゆえに本作は、トップをとりつつも王道になりえない。これだけの力があるからこそ、この飛び道具を従えた、正攻法の面白さで殴ってくる傑作を読みたい。そんなわがままを言わせてほしい。(編集部・梅田)

軽快な文章、メタ的な要素を並べつつもスルスルと読める高い可読性、魅力的な主人公(と最低限の描写のモブ)、明快な構成、緊張感と爽快感を両立する読後感等、短編として文句なしの出来でした。加えて、主人公の主観に依存する世界観描写も、タイトルと連動する作中のギミックも面白さに拍車をかけていました。 一方で、「関係(やその形成過程)を描く」という点が構造上切り捨てられる形式でもあるので、 今回のコンテストの骨子と照らし合わせて評価に悩んだ部分もありました。とはいえ「逆立ちしてもこれは書けない」と思ったのは事実で、素直にすごく面白かったです。(伊島糸雨)

地の文のテンポがよく非常に読みやすい……と思っていたら、とんでもない場所にまで連れていかれました。 小説としての面白さや完成度は非常に高く、この手口でここまで書けるのは稀有だと思います。間違いなく傑作なので皆さんもこの作品を読んでみていただきたいです。 読めば分かると思います。(綾加奈)

永原はる「最終回をくれてやる」

編集長賞

「女の趣味が尖っていてよかった」とは綾加奈先生の評。三波が嫌いなオタクなんていません!! 百合小説としての魅力十二分なかけ合い。グイグイ来る語りと人を食ったキャラが好みです。 モチーフの選び方にもセンスがある。特に「潮汐固定の関係に留まれない」のサブタイトルが好きです。本コンテストの中でも秀逸でした。書くべきことをバシッと決めてキラーフレーズを束ねてエピソードにして積み上げれば小説になるんですよ。 だがしかし。読者に最終回は与えられない、看板に偽りあり。だから「最終回くれてやる」。どうかこのストーリーを最後まで描ききって欲しい。 物語の力に引っ張られ、ともすれば筆者の実力以上にキラキラと輝き饒舌になるキャラクターにケツを叩かれるのも、ときに間に合わないことも、その才能を放っておけないことも、作家が作家たるひとつの証左でしょう。紛れもない才能の原石に期待しています。 全力で編集長賞としてプッシュします。(編集長)

「続きがあるなら金払ってでも読みたい枠」でした。 ゆえに賞レースとしては未完成な作品です。 中盤までの勢いのままに突き進められれば傑作以上のものになると感じているので最高の一品をお願いします。(綾加奈)

月岡朝海「花蟷螂」

編集部賞

ひとりの人物の年代記として見所がある。時代がかった文体は本コンテストの中で最も〝握力〟を感じた。知らない本を開いて、旧仮名で執筆された本作を目にすれば「明治以前の作家の未発表作品」として途中まで騙されるかもしれない。筋書きは明朗な反面、現代の小説読者にとって極端に難読で、商業小説としての評価に窮する。ただ、決して自己満足で書かれていない――半可通には書けない「並々ならぬ力作」だと素直に感じたことは付す。大前提として「これが百合か?」という点は、読んだ者には語るまでもない。たとえ小説以外の媒体でも「世に出るべき作品」との強い推薦もあり、編集部賞とする。(編集長)

江戸の花魁に焦点を当てた歴史物として、非常に高い完成度であると感じました。 重みがありながらもどこか淡々と引き込ませる語り、染み入る表現、没入させる人物とその感情・関係描写は読み応えがあり、1万4千字とは思えない満足感がありました。文体と設定が醸し出す物語の空気に飲まれるという点で最高評価をつけました。 憧れ、献身、罪と継承といった主人公→花越の主観的な感情の変容もありありと思い描け、選考委員としてもいち作家としても、こうした作品に触れられたことを嬉しく思います。(伊島糸雨)

選考を開始してすぐにこの作品に遭遇した。その瞬間から、受賞作として推薦することを決意していた。現代離れした文体は目で追うには少々戸惑いがあるだろう。しかし音読すると、その言葉選びと文体が作る音の滑らかさ、浮かぶ情景の美にうっとりする。そして幽玄で艶のある文章が、描く物語としっかり調和している。本作のような作品と出会えただけで本コンテストを開催した甲斐があった。現代の作品としては読者の間口が狭すぎる点に難があるが、本作のクオリティを鑑みると、その難もそのままに、間口の狭さをなんとか解決できるようプロデュース方法を模索するべき次元に達していると判断した。(編集部・梅田)

優秀賞

Nish「香書」

「紙の本が好き」という〈わたし〉の偏愛が嗅覚を通して発展していく。二人称小説として「客観」のムードが通底する一方、途中のツイストは奇想と言ってもよく、短いながらも妙味がある。冒頭の即売会の雰囲気も経験者ならでは(と経験者の評者には)と思わされる。作中でのふたりの行為について「良い子は絶対に真似しないでね」のタブーに自覚的で、文字通り読者との間に一線を引く「語りと語られる物の一致」に好感が持てる。 私が言うのもなんですが、既存の『百合文芸』から連想されるイメージに最も近い小説のひとつではないでしょうか。ぜひ読んで一風変わった「香り」を感じてみてください。(編集長)

二人称をギミックとして使いこなし、読者を「あなた」と「わたし」の間で往還させることによって「関係という線への没入」を実現していると感じました。「本の匂いを好む」というある種普遍的な嗜好から「本を燃やすこと」「その匂いに耽溺すること」の背徳的な喜びへの移り変わり、そして決別と再会までもがひっそりとしつつも力強く描かれており、端正な文章と静謐な二人称の語り、明確な構成、じんわりと残る余韻など、ひとつの文芸として優れた作品でした。「静かな熱」と呼ぶのが相応しい読み味で、このトーンの文体をまた読みたいと思わされました。(伊島糸雨)

「本」や「読書」を賛美する小説は数あれど、本の「匂い」を愛する作品は先例にも少ないように思います。本コンテストで集まった作品の中でも新規性は随一でした。それに劣らず展開も良く、滔々と語られる背徳の行為は文字通り読者を「危険な領域」に誘う力を持ったものだったように感じます。 また、この作品には評者として推したい点があります。それは物語としての結末と小説としてのオチが両立していた点です。往々にしてフェチズム小説は感傷的か倒錯的かに傾倒してしまい、締まりを欠いてしまうきらいがあるように思います。この作品はどちらに陥るでもなく、物語として、そして小説として、十分に強度があったように感じました。(編集部・TK)

入賞

霧江「切手の裏の戦争」

歴史、その中でも第一次世界大戦を扱いつつ、手紙の検閲というあまり見ない部分に焦点を当て、かつ味わい深い人間関係も描いた優れた作品でした。 断片的に明かされる主人公の来歴と関係、その中で検閲課職員として新たに築かれていくフレイヤとの繋がり、「信頼できない語り手」を用いた真実の開示と、緊張感を維持しながらもしっかりと回収をしていくその後の展開は物語への没入を引き出しており、読み終えてから安堵の息が漏れました。情報の出し方や描写の点で気になる箇所はあったものの、それ以上に加点要素が多く、改稿を前提に推してみたいと思わされました。(伊島糸雨)

歴史小説というジャンルの固さが苦手なのですが、今作は文章の柔らかさやエンタメの塩梅がピカイチで、非常に読みやすかったです。その上で起承転結が整備されており、物語として隙なく楽しめました。(綾加奈)

投稿作の中でもっとも面白い歴史小説だった。スパイ小説というチョイスがいい。抑制的なドラマが面白かった。威信がまだ衰えない時期の大英帝国の『帝国』らしさを節々に感じる点が歴史好きにはたまらない。物語は、スパイ小説特有の張り詰めた緊張感と、戦線の後方ゆえに生じるどこか牧歌的な風景による弛緩がバランス良く織り交ぜられ、緊張して読む場面もあれば、笑みをこぼしながらよむ場面もあり、バランスが良かった。 一方で、物語が面白いゆえに、文章でもっとディテールを見せてほしかった。建物や床や空の色合い、屋内の様子やにおいなど、五感に訴える表現を盛る、あるいは単純に視覚的情報量を増やすことで、現代日本が舞台ではないゆえの特色がより際立てば描きたい空気感がよりシャープに表現できるのではないか。第一次世界大戦当時が舞台であることも文中に登場するディテールで伝わるものの、第一次世界大戦当時に関する背景知識は現代の読者の基礎知識には不足しているゆえ、作者が補い作品の伝達力を高めた方がよいのではないか。 総合的に、難しい物語に取り組み、見事面白い作品を仕上げつつも、もう一段深い推敲を経て投稿されていればと考え、入賞推薦に至った。(編集部・梅田)

you「兎と奸物」

中華風偽史ファンタジーとして短いながらも非常に面白い作品でした。キャラクターが魅力的で感情移入できた他、語りの文体と会話の文体もメリハリが効いてユーモアとシリアスのバランスが取れており、作中で明かされる瑞兆のギミックも伏線回収として優れていました。 百合として見ても人物の関係や思いを克明に描き出しており、短編としての総合評価に加え、個人的にも好きな作品です。(伊島糸雨)

地の文と会話の対比がとてもツボで、全体を通して心から楽しませていただきました。導入の文章に乗れるかどうかで0か100かの読み心地になると思いますが、ふたりの関係性からオチの完成度まで、一万字以上の満足感がありました。作家さん単位で推していきたいです。(綾加奈)

以上、選考委員6名による全15作品の選評を掲載します。 ■特設ページ (ノベルアップ+零合百合文芸コンテスト ■メディア向け資料・プレスリリース (PR TIMES〝唯一百合〟の小説を。「『零合』百合文芸コンテスト」小説投稿サイト・ノベルアップ+にて作品募集開始! ※当イベントは、株式会社ホビージャパン(主催者)/ラウンドゼロ株式会社(共催者、出版者名:零合舎)による共同企画です。 ©HOBBY JAPAN・ROUND ZERO, Inc.

関連する本